2016年3月8日付

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5年前のあの時を、諏訪市役所の記者クラブで迎えた。立ち話をしていると、足を取られるほどの横揺れ。危険を感じたが身は固まり、呆然と立ちすくむだけだった▼宮城県東松島市の雁部那由多さんは、東日本大震災で津波に飲み込まれる男性を目の当たりにし、「見殺しにした」と自分を責め続けてきた。当時小学5年生。〈その人は波に足を取られながらも、僕の目を見て、僕に向かって手を伸ばしてきました。でも僕は、手を伸ばすことができませんでした〉「16歳の語り部」(ポプラ社)。生死を分ける壮絶な瞬間。11歳の少年に過酷な体験を強いた津波が憎らしい▼雁部さんは一昨年、胸に閉じ込めてきた苦い記憶を語り出した。最初に話した相手は、隣接する石巻市を訪れた諏訪市の小中学生。真剣に耳を傾ける同世代の反応を受け、「語り部」として体験を語り継ぐ決意を固めたという▼先日のテレビ朝日・報道ステーションは、雁部さんのように辛い思いを抱え続け、心身のバランスを崩す子どもが増えつつある被災地の現状を報告。精神科医はなかなか元の生活に戻れない復興の遅れを要因に指摘し、「そろそろ限界だ」と警鐘を鳴らした▼岩手、宮城、福島の3県では今も約6万人がプレハブ仮設住宅に暮らし、海岸にはスコップを手に家族を捜す人の姿があるという。出口の見えない原発問題も合わせ、被災地の傷はまだまだ深い。

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