2023年6月2日付
映画はエンドロールが終わり、再び明かりがともるまで席を立たないタイプ。制作者の意図や思いが最後の最後にまで表現されているような気がして▼諏訪地方がメインロケ地となった是枝裕和監督の最新作「怪物」。カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した。公式上映後の9分半にわたるスタンディングオベーション、多くの映画人、文化人が高く評価した作品が諏訪で撮られたと思うと、この地に住む一人として誇らしさがこみ上げてくる▼試写会に参加し、一足先にその世界を堪能した。世間の「普通」と個人が大事にする「本心」の間に生まれる「溝」。他人を大切に思うがあまりに生まれる不信や不安が「溝」を大きくし、個人の力ではどうしようもなくなっていくとき、それを「怪物」の仕業で片付けられたならどんなに楽なのだろう▼エンドロールに「宮坂洋介」「今井正和」の名を見つけた。諏訪圏フィルムコミッションの宮坂さんとオープンセットの建造など担った今井建設(富士見町)の今井社長である。団体名、会社名とは別に記された個人名に2人の努力が垣間見えた▼映画「怪物」について是枝監督は「全ての人がいい仕事をしているという言葉をもらい、うれしく思った」と語った。諏訪ロケを支えた2人も是枝組にとって欠かせない存在だったと実感したエンドロール。きょう2日、いよいよ公開初日を迎える。