2023年6月5日付

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湖岸を歩けばトプントプンと鈍い音がする。空き缶やビニールのごみが緑色をまとって水面にひしめく。死んだ魚と薬品が混じったような臭いが鼻を突き、夏場はとてもじゃないが岸に近づけない。子ども心に刻まれた諏訪湖だ▼「この頃きれいになった」と住民の口の端に上るようになってはいたが、数字で裏付けられると実感が湧く。県の昨年度調査で水の汚れを示す代表的な指標の値がすべて改善し、透明度も初めて目標を達成した。単年の一時的な好転ではないとの見立てもうれしい▼湖の汚染との闘いは半世紀超に及ぶ。高度経済成長期、腐臭漂うごみだめと化した湖の姿は、産業の繁栄、暮らしを豊かにするための代償-と住民は仕方なくも受け入れていたように思う。大いなる自然の力を過信してもいた▼「それではだめだ」と声を挙げた人の中に「諏訪湖シャボン普及会」があった。台所からの廃油でせっけんを作り、普及する草の根の活動を30年近く続けて家庭の意識を変えた。取り組みを描いた絵本に共感し、郷土愛を育んだ子どもたちが今の諏訪を担っている▼湖の浄化は進んだ。が、魚はめっきり少なくなった-と漁業関係者の表情は全く晴れない。命を育んでこその環境保全だ。根本的な解決にはほど遠い。微小プラスチック、有害な有機フッ素化合物など世界で深刻な水質問題も他人事ではない。今再び先人の熱意に倣いたい。

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