2023年6月7日付
工事現場から漂うアスファルトの臭いを嗅ぐと苦い思い出がよみがえる。30年以上前の話。大学の夏休み中に地元でアスファルト舗装のアルバイトを経験した。当初は長期間お世話になるつもりだったが、過酷な労働環境に音を上げ、数日で辞めてしまった▼商業施設の駐車場や配管工事を終えた工場の敷地内。炎天の下、掘削した地面に砕石を敷いて路盤を整え、その上から高温のアスファルト混合物を敷いて締め固める。単純な作業に思えるが、仕上がりに影響を及ぼすこともあり現場では檄が飛んだ▼容赦なく照り付ける夏の日差しに加え、アスファルトの熱で現場一帯はさながら灼熱地獄。数日間の作業ですっかり心が折れてしまった。過酷な環境下でも正確、丁寧に仕事をこなす作業員たち。自身の軟弱さを恥じるとともに、プロの仕事ぶりには畏敬の念を覚えた▼労働人口の減少により、多くの業界で人材不足が課題となっている。特にマンパワーが重視される建設業界。IT化が進んだとしても肉体労働抜きには成立しない▼上伊那農業高校コミュニティデザイン科の3年生は2021年度から伊那市春日公園にある噴水跡地の改修工事に取り組んでいる。建設業の次代を担う人材育成につなげる狙いがあり、この経験を機に地元建設業へ就職した先輩もいると聞く。プロの指導を受けながら作業に励む生徒たちの姿を目にし、心強く感じた。