2023年6月26日付
今月20日に行われた将棋の王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦で、あわやというところまで追いつめられた藤井聡太七冠の大逆転劇が話題になった▼終盤、相手の村田顕弘六段が90%以上勝勢と評価していたAIが、藤井七冠がただで捨てたように(素人目には)見える金を村田六段が銀で取った途端に、評価値が村田六段17%、藤井七冠83%とひっくり返った▼このような、一見おいしそうな駒を取ったら実は恐ろしいわなだった-という手を将棋の観戦記で「毒まんじゅう」と表現することがある。藤井七冠といえば膨大な研究と深い読みで圧倒的な勝ちを積み重ねている印象があるが、実は相手を惑わすような勝負術にも長けていると見える▼三省堂国語辞典8版は「毒まんじゅう」を「相手を味方につけるため、ひそかにあたえる対価」と説明し、「-を食う」の用例を2003年からの言葉としている。これは同年9月の自民党総裁選で村岡兼造官房長官が小泉純一郎首相を支持したことを野中広務氏が「毒まんじゅうを食った」と批判し、流行語になったためだろう。将棋とは使われ方がやや違う▼政治の世界なら票や裏金、ポストの密約が毒まんじゅうに当たるのだろうが、うかつに目先の利益に飛びついてしまうこと一般への戒めの言葉とも読める。百戦錬磨のプロ棋士でもつい手を伸ばしてしまうのだから、よくよく用心しないといけない。