上伊那地域 松くい虫被害高止まりに苦慮

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上伊那地域の松くい虫被害は高止まりの状態が続き、県や市町村は対応に追われている。各市町村からの報告に基づく2022年度の被害量は5392立方メートルで、前年度より155立方メートル減ったものの、ほぼ横ばいの状況。背景には、枯損木の処理費用が高額な「特殊伐採」の増加がある。通常の作業に比べて重機や人員を必要とするため費用がかかり、限られた予算の中で被害の拡大に処理が追いついていないためだ。

県上伊那地域振興局によると、22年度の管内の被害量のうち、伊那市は2558立方メートル、駒ケ根市は1290立方メートルで、ともに前年度より減少したが、管内全体に占める割合は大きい。松くい虫被害は標高の低い場所で活発化するため、住宅地など人間の生活圏にも拡大している。

管内の駆除量は2687立方メートルで前年度とほぼ同数。18年度以前は4000立方メートル台が続く時期もあったが、19年度以降は減少傾向が続く。

その要因の一つが特殊伐採の増加だ。作業場所が住宅や幹線道路に近い場合、倒した木が周囲に被害を及ぼさないよう重機を用いたり、作業員を多くしたりするため、1本当たりの費用は高くなる。周囲に施設や電線があったため1本切るのに約30万円かかったケースも。山中なら2万円ほどで賄えたという。

処理費用の増加は市町村の負担増につながる。伊那市では昨年度の処理費用約3900万円のうち約1300万円が特殊伐採に充てられた。前年度より100万円ほど増加した。予算も限られている中で、処理数の減少を余儀なくされている。

伐採を請け負う事業者の悩みも大きい。上伊那森林組合によると、特殊伐採に使用する高所作業向けのロープやチェーンソーは通常より高額。担い手不足も課題で、特殊伐採の技術は5年ほど経験を積む必要があり、人材育成に時間がかかるという。

松林は保全対象の「守るべき松林」と、被害拡大を防ぐ「周辺松林」に区分され、同振興局は「周辺松林」における伐採や樹種転換が「守るべき松林」の保護、さらには特殊伐採の減少につながると強調する。一方で、現場の事業者からは樹種転換について、持ち主が分からない土地があることなどから「作業が進まない」との声も。また、被害木を1本確認したら周囲の木も感染を考慮して処理すべきという指摘もある。

同振興局は「予算的、人員的に全てを駆除することは難しい。速やかな伐採と樹種転換を進めてほしい。土地の持ち主や周辺住民の意向が必要であり、丁寧な説明と理解を得ることが大切」とした。

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