2023年7月11日付

LINEで送る
Pocket

難民を救済する日本人初の国連難民高等弁務官になった緒方貞子さんは1991年、就任2カ月弱で重要な判断を迫られる。湾岸戦争勃発後、イラク政府に弾圧されていた少数民族のクルド人が武装し、政府軍に立ち向かう。だが民衆は反撃され、隣国のイランやトルコへ逃れようとする▼180万人のうち、トルコへ向かった40万人は同国に受け入れを拒まれ、国境で足止めを食う。当時、国連は自国から他国へ入った人を難民と位置付けて支援の対象とした。イラクから出られないクルド人は対象外だった▼だが緒方さんは40万人への支援を決める。「被害者たちが国境を越えたかどうかにかかわりなく、被害者たちのそばにいる必要があるからです」(小山靖史NHK取材班著、緒方貞子戦争が終わらないこの世界で)▼緒方さんは弁務官として多くの難民と向き合った。対応には難民をひとりの人間として見る「深い思いやりがあった」という。東アフリカには「サダコ」と名付けられた難民キャンプ出身者がいる。彼女の思いやりが通じた証しだろう▼弁務官の後、青年海外協力隊事業で知られる国際協力機構の初代理事長を務めた。現場を視察し、物事を判断する現場主義で人を助けた。駒ケ根青年海外協力隊訓練所(駒ケ根市)で今月から緒方さんの功績を紹介する展示が始まった。平日の見学(要予約)が可能だ。人道支援の足跡に触れられる。

おすすめ情報

PAGE TOP