豪雨災害伝える碑 岡谷市湊「山崩会」が守る

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土石流が発生した7月19日を前に毎年「災害伝承之碑」周辺の美化活動を行う「山崩会」

岡谷市湊の小田井沢川近く。2006年7月に起きた「平成18年7月豪雨災害」で流された巨石がある。現在は「災害伝承之碑」として整備され、遺族や地域住民らが慰霊に訪れる。近年、全国各地で毎年のように豪雨災害が起き、今年も九州や東北で甚大な被害が出ている。豪雨災害で区民7人が亡くなった地元花岡区では伝承碑を守り、次世代に災害の記憶を伝えていこうと、湊地区の有志らでつくる「山崩会」が周辺の美化活動を続けている。

伝承碑は被災経験を後世に伝えて防災・減災につなげるため、11年3月に県、市、区によって設置された。周辺は区役員が草刈りをしていたが作業が追いつかず、半年ほどすると雑草が目立つようになっていたという。

そこで、災害の当事者でもある同会代表の花岡宏行さん(77)が、家族や地元の知人らに声を掛けて定期的に手入れをするようになった。毎年災害が起きた7月19日の前には必ず美化活動を行い、今年も5日に会員らが集まり作業に汗を流した。花岡さんは汗を拭きながら「災害の記憶は薄れていくが、この場所に来るたびにあの時のことを思い出す」と当時を振り返った。

「次の世代に災害の記憶をつないでいきたい」と話す代表の花岡宏行さん

06年7月19日未明―。2日ほど前から降り続く記録的な大雨により、湊地区の小田井沢、八重場沢、ウノキ沢の上流部で土石流が発生。周辺の樹木や石を巻き込みながら下流部の住宅地を直撃して、諏訪湖まで流れ出た。住宅7棟が全壊、8棟が半壊。7人の命が奪われた。

花岡さんが異変を感じたのは前日18日の夕方。激しく降る雨はやむ気配がなく、自宅の庭にたまる水を見て「これは大変なことになるかもしれない」と不安がよぎったという。その夜は妻と交代しながら睡眠を取り、いつでも避難できるよう警戒した。

日付が変わり、19日午前3時ごろ。「ゴロゴロ」という音を聞いて外に出ると、自宅敷地横にある小田井沢の水路は水が激しく流れ、道路には山側から流された農作物が転がっていた。その様子を見て慌てて家族を起こした。消防団員が土のうを積みに上流の方に行くのを見て、一緒に手伝おうと後を追うと、消防団員や小田井沢川沿いにあった工場の社員らがいた。

しばらくして花岡さんは家族のことが心配になり家の方に下って行った。その時だった。花火が打ち上げられたような大きな爆発音が聞こえ、山の方に住宅の1階ほどの高さと思える真っ黒な土石流が見えた。木を根こそぎ巻き込んだ土石流は、時折木が引っかかって止まりながらも迫ってきた。水に足を取られた花岡さんは道路脇の畑に倒れ込み、その横を真っ黒な土石流が通り過ぎていった。

土石流は勢いを増して、住宅地を飲み込んだ。幸い家族は高台に避難して無事だったが、自宅には土砂が流れ込んだ。花岡さんは近くの湊小学校に避難したがいっぱいで入ることができず、膝上まで水に浸かりながら岡谷南部中学校に歩いて向かった。その後、土石流が来る直前まで一緒にいた消防団員や工場の社員らのうち、3人が亡くなったことを知った。

今年も大規模な豪雨災害が各地で起きたことに触れ「報道を見るたびにあの時と重なり何とも言えない気持ちになる。大雨災害はどこでも起こり得ることを改めて思い知らされた」と花岡さん。「自分はたまたま助けていただいたと思っている」といい、「湊の子どもたちは当時のことを知らない。地域で伝承碑を守り、次の世代に災害の記憶をつないでいきたい」と語った。

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