小川さんが「時代を証言」 同人誌「窓」発行

「諏訪最後の粋人 小川哲男さんが語る」など16作を収録した同人誌「窓」11号
諏訪地方と縁のある人たちの同人誌「窓」を発行する窓の会(三井夏海発行人)は、第11号を発刊した。小説や随筆、研究など16作を収録。諏訪市の牛山一貴さんは、東洋精機工業社長、茅野商工会議所会頭などを務めた小川哲男さん(96)=茅野市=にインタビューし、ドキュメント「諏訪最後の粋人 小川哲男さんが語る―諏訪市大手町に芸者さんがいた頃―」を執筆。大正、昭和の時代、花柳界を担った芸者をはじめ料亭や企業などについて語り、「時代を証言した貴重な一作」と関心を集めている。
「窓」は、「広く文芸の試みをする場」として文筆家の故市川一雄さんらが中心となって創刊。今号には鮎澤宏威さん(諏訪市)の研究「神仏集合 奉告祭」、松﨑寛さん(同)の随筆「周縁の光景(二)」、三井さん(千葉県市川市)の小説「なりわい(四)」などを掲載した。
「諏訪最後の粋人―」は、三味線の長唄は杵屋新哲男、小唄は稲本喜美哲の芸名を拝受、三味線という趣味を通じて全国の芸者と交流した小川哲男さん。牛山さんは直接会ったり電話や手紙で何度かやりとりして書き上げた。
「大手町の料亭と芸者」「趣味の三味線のこと」など7章で構成。小川さんが生まれた1927(昭和2)年ころの時代背景や兄の博正さんと東洋精機工業を創業、その頃からの諏訪地方の精密工業、企業人の様子を随所で紹介。花柳界がにぎわった昭和40年代までの、当時の料亭「信濃」や「宗藤」などの建物、宴会や帳場の様子、訪れた政財界、文化人などの交友もしのばれる。
取材で最も時間をかけたという芸者について、芸者になるためには唄や踊り、行儀、お座の掟など、見番で検査合格してさらに芸を磨いた―と、大手かいわいの隆盛期を担った多くの芸者を思い起こしている。
牛山さんは「対談中、流行唄をしっかり覚えていて唄ってもらった」、あとがきで「大手町の芸者さんたちのことを『芸の仲間』といい、その語るまなざしはいつもやさしかった」と記している。
同人誌頒布は700円。諏訪市末広の言事堂(電話090・7567・0766)で扱っている。問い合わせは三井発行人(電話090・8588・0543)へ。