2023年7月31日付

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「お客様は神様です」。昭和の歌謡界を代表する歌手、三波春夫さんの名言として広く知られるフレーズだ。客は絶対的な存在。そんな意味で引用し、接客の心構えを指導された経験もあるが、三波さんの思いとは異なる解釈で広まったらしい▼三波さんの公式サイトでは生前のインタビューなどを紹介し、この言葉の真意を説明している。「演者にとってお客様を歓(よろこ)ばせるということは絶対条件」。観客の前で雑念を払い、澄み切った心で歌うという歌手としての心構えを表現したもので、客にこびているわけではないそうだ▼誤った解釈が定着している状況について、三波さんは著書「歌藝の天地」(PHP文庫)の中で「人間尊重の心が薄れたこと、そうした背景があったからこそ、この言葉が流行ったのではないだろうか」と分析している。確かに他者への不寛容さが際立つニュースを目にする機会が多い▼高速バスの運転手が休憩中のサービスエリアでカレーを食べていたことを問題視する乗客のクレームが論争となった。「休憩中に食べて何が悪い」「客は神様じゃない」と運転手に同情する意見が目立ったが、不快に感じる人も一定数いたようだ▼理不尽な理由で苦情を訴えるモンスタークレーマー。不寛容社会が生み出した怪物たちは案外身近にいる。深夜に立ち寄ったコンビニで声を荒らげる客を目にし「こうはなるまい」と自らを戒めた。

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