玄関に”日本一小さな美術館” 月乃星綬さん

”小さな美術館”を始めた自宅の玄関先で月乃星綬さん(左)と妻のふりるさん
妖精や月、星などをモチーフにした幻想的な作風で知られるメルヘン画家の月乃星綬(つきの・せいじゅ)さん(72)は、伊那市下新田の自宅兼アトリエの玄関先に自作の絵を展示し、「日本一小さな美術館」として開放している。その数約60点。鑑賞には事前の予約が必要だが、「日々の疲れを癒やす心のオアシスとして気軽に来ていただけたら」(月乃さん)と呼び掛けている。
■かわいらしいキャラで魅了
多くの車が行き交うナイスロード沿い。ユニクロ伊那店の西側に”美術館”はある。緑に包まれた木造2階建ての民家。玄関先の小さな小さな空間に、壁から床までたくさんのメルヘン画が所狭しと並ぶ。サイズははがき大から20号まで。近作に混じって、半世紀ほど前に描かれた過去の作品もある。
描かれているのは「メルヘンの国」(月乃さん)。昼寝が好きなお月さま、空の線路を走り抜けていく汽車、蝶々のように楽しく飛び交う森の妖精たち-。木々には桜のような花が満開で、遠くには三角屋根の城も見える。かわいらしいキャラクターが織りなす唯一無二の世界観に魅了されるファンも多い。
月乃さんは京都市出身。専門学校卒業後にデザイナーとして独立し、70年代から80年代にかけてさまざまな商品のパッケージやロゴなどを手掛けた。自ら「森の妖精たち」というブランドを立ち上げ、グッズ販売の店を経営したことも。「はっきりした理由は分からない」(月乃さん)が、40年以上前から月や妖精たちをモチーフにしたメルヘン画を描き始めた。
■指先で色重ね 温かく柔らか
制作技法は独特。長年研究と実践を重ねて編み出したという”フィンガーペインティング”で描く。絵筆を使わず、下絵も描かず、何色ものパステル絵の具を指先だけで塗り重ね、不思議なグラデーションを生み出す。メルヘンの世界にふさわしい温かく柔らかなタッチが特徴だ。
コロナ禍前は山梨県内の有名ホテルで自作の絵を展示販売していた。フィンガーペインティングの実演も同時に行っていたため、外国人客にも人気があったという。2016年に妻の月乃ふりるさん(67)とともに京都から駒ケ根市中沢へ移住。20年9月に伊那市へ移った。
■コロナ禍乗り切り個展再開
伊那の自宅には当初から美術館を設けたいと考え、看板まで作ったが、新型コロナの感染拡大のため一時中止。山梨にも行けなくなったが、さまざまな支援を受けてコロナ禍を乗り切り、年に数回行っていたかんてんぱぱホール(伊那市)での個展も昨年暮れから再開した。
月乃さんは「ここは小さい美術館ですが、気軽に来ていただき、絵を見てほっとしていただけたらうれしい」と話している。
入場無料。開館時間は午前10時~午後4時。不定休。予約の申し込み、問い合わせは月乃さん(電話080・3031・7030)へ。