アマチュア天文家藤森さん 太陽観測70年

記録を手に70年間の活動を振り返る藤森賢一さん
アマチュアでありながら世界の天文学に功績を刻む藤森賢一さん(88)=諏訪市田宿=の太陽観測活動が70年の節目を迎えた。小学生の時に天文に魅せられて夢中になり、18歳から手作りの観測望遠鏡で太陽の黒点や白斑、フレアなどの活動を記録し続けてきた国内でも最長観測者の一人。今夏、茅野市八ケ岳総合博物館で開催中の企画展で紹介され、その研究と功績に改めて光が当てられた。藤森さんの記録を科学データとして次代に生かすための取り組みも始まっている。
宇宙の神秘に引かれた少年は眼鏡のレンズを使って反射望遠鏡を自作し、中学時代は屋根に開けた穴から星ばかり眺めて過ごした。高校を卒業して農業を継ぐ頃には天文熱も本格化。天文学者山本一清氏が主宰する東亜天文学会に入会し、氏の勧めで太陽観測を始めた。
望遠鏡で太陽の像を板に投影し、スケッチする観測手法で黒点や白斑、吹き上がる紅炎の位置、大きさ、動きをつぶさに記録した。自宅に天文ドームを造り、農作業の合間を縫っては望遠鏡を傾け、夜は各地から集まる観測資料に目を通して更ける毎日。「活発な黒点は見てる間に形が変わる。白斑の観測を続けてきたのは私だけ。疑問点が次々に出てくる」と興味に衝き動かされて70年が経った。
かつては同類の観測者が県内外に数多くいて刺激を受け、山本氏との文通も励みになった。「観測を人生の目標の一つにしたものの、えらいことを始めてしまったと思った。観測に携わった過去の多くの人たちの実績をもう一度確かめたい思いで続けてきた」という。
半世紀以上にわたり手法を変えずに同一の人が観測した記録は信頼性が高く、かつ精密で世界的に高い評価を受けてきた。各国の天文機関に情報を提供し続け、45歳の時には紅炎が極に達する時期も発見。太陽観測権威の米国ウィルソン山天文台の博士から称賛の手紙が届き、感激した。
この頃には観測の精度をさらに磨こうと東京天文台に1年間留学。「研究人生で一番充実して有意義だった」と振り返る。近頃は体調を崩して観測がかなわなくなったが、「過去に観測をしてきた人たちのことを考えるともう少し続けたい気持ちはある」と熱意は不変だ。
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地元では藤森さんの研究成果を次代につなぐ取り組みも始まっている。同博物館と諏訪清陵高校天文気象部、その卒業生有志が藤森さんの未完の図表作りを引き継いだ。藤森さんの家族の手でスケッチ記録のデジタル保存も進む。
同博物館の渡辺真由子学芸員は「約400年の世界太陽観測史の中で70年を担う貴重な記録。技術は進んでも人の目、手で行う研究の大切さを教えられる」とし、「藤森さんの記録に触れて高校生やアマチュア天文家の研究意欲が高まれば」と期待も込めている。
同館での展示は9月10日まで。信州の観測者の一人として紹介され、手書きの精巧な記録の数々、手作りした観測機器などが見られる。