芦部信喜のブックレット反響 伊那北高同窓会

芦部信喜の若き研究者時代に記されたノートと生誕100年記念に発行したブックレット
旧伊那中学校(現伊那北高校)出身で戦後日本を代表する憲法学者、芦部信喜(1923~99年)の生誕100年を記念し、伊那北高校同窓会が発行したブックレット「われは往(ゆ)く」が、全国的に反響を呼び、憲法学の研究者の注目を集めている。日本国憲法公布直後の学生時代に記し、芦部憲法学の原点となった論考、晩年の95年に平和憲法について講演した記録、若き研究者時代に作成したノートの解説など同窓会所蔵の資料をまとめた。
講演は、同校創立70周年記念事業として芦部が「平和憲法五十年の歩み-その回顧と展望」と題し、生徒に向けて話した記録。自身の戦争体験、学友が戦死した「痛嘆の思い」が平和憲法を研究する原点になったとし、影響を受けた学者や憲法学への考えなどを語っている。戦力不保持を規定した9条と自衛隊の存在に対する葛藤を吐露しつつ、「不戦の誓い、非武装の理想を堅持することで、憲法学者として、あの戦争で尊い生命を絶った犠牲者に対し、鎮魂の誠を捧げる道が開けるのではなかろうか」と締めくくった。
学生時代の論考は芦部が23歳の時、在籍していた東京大学で46年の憲法公布日に行われた南原繁総長の講演に触発され、書いたとされる「新憲法とわれらの覚悟」。新憲法を生かすために国民の「主体的意識の覚醒」が求められると主張している。実家のある駒ケ根市で発行していた雑誌「伊那春秋」第4号に掲載されたが、長年、雑誌が見つからず、「幻の原稿」と呼ばれていた。2021年に市内で見つかり、芦部の教え子で北海道大学名誉教授の高見勝利さんが判読した全文と注釈をブックレットに載せた。
ノートは27冊あり、遺族から同窓会に寄贈されたもので、ブックレットには高見さんが記した解説の一部を掲載。ノートに挟まれていた芦部直筆の詩の一文をブックレットの題名にし、この詩のほか、芦部の中学時代の書や高見さんの随筆「芦部研究室の思い出」も紹介した。
編集した同窓会の岩崎靖事務局長は「芦部先生はどのような気持ちで憲法に向かっていったのか。人間像を伝えるものにしたかった」と話す。
ブックレットはA5判、76ページで、1500部を発行したが、すぐに全国から注文が相次ぎ、500部増刷した。弁護士の遠藤比呂通さんが書評を書くなど、憲法学の研究者が関心を寄せている。
高見さんは「先生の生誕100年にふさわしい冊子。全国にも広く知られ、読まれてほしい」と期待した。
ブックレット希望者には120円分の切手(送料)を同封してもらい頒布する。問い合わせは伊那薫ケ丘会館(電話0265・72・7312)へ。