2023年8月25日付

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この時期は取れたての野菜をいただく機会に恵まれる。つい先刻まで枝にあり、根を張っていたと分かるみずみずしさで、その味も香りも濃くてキュウリさえ甘く感じられて驚く。土づくりから労して育てた作り手の表情が目に浮かぶ▼頂戴する野菜はどれも傷一つなく、きれいな色形をしているけれど、それは本来の野菜作りではありえない。中でも一等一番きれいな出来のものばかりを集めて届けてくれたのだ。育てた本人が口に出来るのは曲がったり、傷が入ったりした器量の悪いものばかり▼農家の奥さんは「新米なんか一度も食べたことがない」と笑う。待望の新米が取れたらまずは家族や親戚に届け、市場に出荷。残りは保管する。作物は農家の財産だ。自然相手の仕事ゆえ凶作への備えも怠れない。人には旬を届けても家人の食卓は年中、古々々米▼一次産業に携わる人たちは「始末」を大切にする。親指の頭ほどの不出来な野菜も、傷み始めたものも丁寧に処理をして食する。実はこの手間が何より大変で時間も労もかかるのだが作ったもの、獲ったものを決して無駄にせず、生かし尽くすことに重く心を置く▼福島原発の処理水放出に漁業関係者が反対の声を上げている。他の施設も使用済み核燃料の処分方法は棚上げのまま再稼働の方針だ。始末の仕方には異論も多い。自然を相手に市民の食を守る人を泣かせない手だてはないものか。

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