2023年9月21日付
いつもの物忘れで目の前の道具の名が出てこず「アレ」と呼んだら周囲から明るい笑いがこぼれた。18年ぶり優勝の阪神、岡田彰布監督のおかげで、切ない物忘れがにわか最新の流行語になった。年配には心がちょっと休まるユーモアだ▼片や、物忘れやとっさの判断の苦手さに付け入ってだます犯罪の多さは業腹もの。このごろは「オレ」という言葉を使わなくなり、うそもますます巧妙でたちが悪い。国や市の担当職員を名乗ったり、中には警察官をかたる者もいたりして市民の不安は募るばかり▼「保険料の払い戻しがある」「投資で利益が出る」という甘い話から、「放置すると訴訟になる」という脅しまで内容はさまざま。口座に送金させるだけでなく、玄関先で印鑑を取りに部屋へ戻った隙にキャッシュカードをすり替えられて悪用された被害者もいる▼「福祉の機関から『書類に印を押してもらいたい。これから自宅に行く』って電話があったんだけど」と家族から不安そうな声で相談が来た。これはいやとても怪しいぞと勇んで当の機関に問い合わせたら事実で、以前提出した書類が無効、と当方に誤りがあった▼下衆の勘繰りに恐縮し、「あちらにしてみたら我が家が詐欺師だった」と苦笑いの一件になった。でもそのぐらい慎重でちょうどいい。日常にない話が持ち掛けられたら「アレ(詐欺)かもしれない」と心の隅で思ってほしい。