2023年9月27日付
「この香り、紙面で届けてくださいよ」。マツタケが豊作となったある年、産地を訪れると秋の芳香が広がっていた。「毎日山に入ってごしたいよ(疲れるよ)」。生産者が質も形もいいマツタケを箱に納めながら苦笑いを浮かべていたのを思い出す▼残念ながら今季はボリュームある香りを届けられていない。梅雨終盤の土用マツタケを含めてである。残暑が厳しい上に雨が少なく、山が乾いていて生育する環境にない。雑キノコもなかなかお目に掛かれない▼諏訪市後山の遠藤猶善さん(73)は一昨日、数本のマツタケを収穫した。初物だという。「松茸山荘」を営み、秋たけなわになれば県内外からの客をマツタケ尽くしの料理でもてなす。コロナ下の休業を経て4季ぶりの営業を目指していたが、収量を十分確保できないと判断し、今季も断念した▼日差しだけは夏の名残をとどめるが、暑さは和らぐ。子どもの頃はお盆を過ぎると秋の気配を感じたものだが、信州も蒸し暑さが長く残るようになった。おいしく美しく過ごしやすくて大好きな秋なのだが、近年は葉の色づきが遅れ、紅葉の期間も短くなった気がして寂しい▼秋は心躍り、仕事でも私生活でもあちこちに出掛けたくなる。澄んだ空気や色合いからくるものだろう。心が落ち着く季節でもある。秋分を過ぎてようやくといった感じか。味覚、芳香、色彩の秋を少しでも長く紙面で届けたい。