2023年10月4日付
電話の歴史は150年余、今や片時も離せない身近な機器なのに、使い方にはいまだに自信がない。相手の声音に斜めなご機嫌を察してひるんだり、緊張でつかえたりしていつも滑らかにいかない▼特に初めて掛ける電話の一声は難しい。ぶしつけだと失礼になり、丁寧が過ぎれば「何かの売りつけか、だます魂胆か」と不審がられる。声の大きさや抑揚、話す速度などさまざまな心配りが要り、使う言葉一つから仕事の能力や人柄、品格まで透けて見えもする▼声のみに頼るコミュニケーションは難易度の高い複合種目のようだ。そしてまさにこれを競う伝統の応対コンクールがある。今年の諏訪大会には地元企業から24人が出場した。食品宅配の営業担当になり、電話越しに客の要望を酌んで商品を提案する課題に挑んだ▼会話が弾む相づちを打ち、相手を気遣うひと言を添えるなどそれぞれの工夫で気持ちを込めていた。優勝した金井美紗さん(茅野市)の職場・大和生物研究所蓼科工場では先輩からマナーを学び、継承しているそうだ。同社の電話応接は親身で余韻がすがすがしい▼近頃は気遣いの多い電話を避けて、インターネットの交流サイトやメールで会話を済ます人も増えている。言いたいことだけ一方的に伝えるのは気楽で便利だが、字面のみでは誤解を招きやすい。電話には顔が見えないからこそ思いやりを育て、心をつかむ力もある。