2023年10月6日付
南アルプスの美しい山並みを眺め、心癒やされた。高校時代まで過ごした実家の居間から見える景色。30年以上放置されていた隣接の空き家が先日取り壊しとなり、さびたトタンの裏から現れた景色に目を奪われた▼いつしか当たり前の景色になっていた廃屋の壁。ところどころ沈んだ屋根はいつ崩壊してもおかしくない状態だった。幾度となく行政に対応を求めてきたという両親。ようやく手に入れた健全な景色を感慨深げに眺めている▼全国で問題視されている放置空き家。2015年施行の空き家対策特別措置法では、劣化により重大な被害をもたらす危険性が認められた「特定空き家」への対応として自治体に立ち入り調査や指導、勧告、撤去命令などの権限が与えられた。少しずつだが行政代執行による取り壊し事例も増えている▼総務省の調査だと、活用のめどが立たない長期放置の空き家の総数は18年時点で全国349万戸。人口減少が進む中、国内では住宅が余っているにもかかわらず、次々に新築住宅が建てられている。空き家問題の解消には中古物件の利活用推進が不可欠だ▼諏訪市で築90年ほど経過した空き長屋を改修した複合施設「ポータリー」が今月オープンした。一帯の歴史ある街並みを大切にしながら新たな魅力を生み出す施設を目指すという。空き家に新たな価値を見いだすか、廃墟とするかは私たち次第。知恵を絞りたい。