2023年10月14日付
金曜の夜は忙しい。重要な会議や会見が開かれることが多く、市役所のニュースリリースも集中する。受け取った情報は、物事の軽重に関わらず、読者に伝えなければならない。それが地方紙記者の生きる道なのだ▼「健康より原稿」。20年前はそう信じて疑わない時代だった。新聞やテレビの記者たちは、発表された情報をうのみにせず、自ら発信源の人間を探し歩き、真実に近づく努力を惜しまなかった。書くことが社会とつながる唯一の手段で、金曜の夜はよく酒を飲み、議論をした。生きていることを確かめ合うような日々だった▼原稿を書き上げて帰路に就く。カーラジオの周波数をNHKに合わせる。最終週は「みんなでひきこもりラジオ」を聞くことが習慣になった。引きこもりの当事者がつながり合う番組だ。孤独の中で紡がれたメッセージを聞いていると、つらくなる時もあれば、救われる時もある▼人口減少と少子高齢化が現実の問題となり、働き方や考え方の転換が求められる。一方、家庭や職場、学校や地域で生きづらさを訴える人は多い。不登校の小中学生は29万人余。自分らしい生き方を求めて地方に移住する人もいる▼ネットメディアの発達で、新聞やテレビが地方の取材拠点を減らし、地域を見守る記者の数が大幅に少なくなっている。今や「原稿より健康」である。ただし人間の探求に休みはない。記者はどうあるべきか。