2023年10月28日付

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「ダルマ宰相」の愛称で知られた高橋是清は昭和の金融恐慌に伴う不況を積極的な金融緩和と財政政策によって脱却した手腕を持つ。だが、その後目指したのは健全財政だった。財政立て直しと軍部の暴走を抑えるため、軍備予算の抑制を主張。結果、急進的な陸軍青年将校所属部隊の襲撃を受け、凶弾に倒れた。二・二六事件である▼その高橋は随想録(中央公論新社)に「歳出は多くても善い、ただその金を効果があるように使え」と残している。恐慌からの脱却を図り、台頭する軍部と闘った財政家の言葉は重い▼防衛力の抜本的な強化に向けて増税を表明するなど「増税」のイメージが定着した岸田首相が「経済」を連呼した先日の所信表明演説で「国民への還元」を強調した。全文を読み返してみる。物価高の現状を踏まえ、デフレの完全脱却のための一時的措置として、税収増の一部を「還元」するらしい▼はてはて?インフレ(物価が上がり続ける状態)とデフレ(物価が下がり続ける状態)という相反する課題に月3000円余の減税で対応していくのか。そもそも矛盾していないか。演説に対する代表質問では与党自民党の世耕弘成参院幹事長ですら「この『還元』という言葉が分かりにくかった」と指摘した▼減税による財政の影響がもたらす効果とは何か。自身の「増税」イメージ払拭のため―とはまさかないであろうと思いたいのだが。

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