伊那の名物酒店 今月末で90年の歴史に幕

31日に閉店する「さかや正藤」と、店主山浦邦夫さんの次女朝倉朋子さん
伊那市の中心市街地で開催しているイベント「信州伊那街道呑みあるき」を企画・主導し、街なかのにぎわい創出に貢献してきた同市荒井通り町の名物酒店「さかや正藤」が31日で閉店する。店主の山浦邦夫さん(80)が9月末、転落事故で全治3カ月の大けがをし、入院したためだ。ニシザワデパートの取り壊しに伴う店舗移転からわずか2年。思わぬアクシデントに見舞われ、90年の歴史に幕を下ろす決断をした山浦さんは「本当はもう5年やりたかった」と無念の思いをかみしめている。
同店では入院した山浦さんに代わって、妻の宏子さん(78)と次女の朝倉朋子さん(41)が接客と閉店準備に追われている。ずっと夫婦2人で切り盛りしてきた店。山浦さんが1人で担っていた配達や重いケースの持ち運びは宏子さんにはできないため、やむなく閉店を決めた。
「多くの方から『これからどこへ行ったらいいんだ』というお声をたくさんいただき、必要としてくれていたんだなって。やはり寂しいです」と朋子さん。宏子さんは「私には何も言いませんが、山浦本人もつらいと思います」と思いやった。
1933年に山浦さんの父、右三さんが開業した同店。山浦さんも60年代から経営に加わり、上伊那の地酒を豊富にそろえるなど個性ある人気酒店に育て上げた。また、山浦さんが諏訪の呑みあるきイベントにヒントを得て、取引のある蔵元からノウハウを教わって始めたのが「信州伊那街道呑みあるき」。2008年から夏・秋の年2回開き、コロナ禍で3年間中断したものの、23年「夏」から再開し、13日には「秋」を開催したばかりだった。
同店では31日まで無休で「閉店セール」を開催中。店内の全商品が対象で購入総額が20%引きになる。「退院してもリハビリが必要。閉店は仕方がない」と話す山浦さん。しかし”希望”もあるという。「まだ具体的な話ではないが、酒屋を引き継ぎたいという人がいるようだ。若い人に新しい切り口で酒屋をやってもらえばうれしい」と期待する。呑みあるきについては「実行委員会で今後も引き続き開催してほしい」と話した。