2023年10月31日付
「地元の里山に手を入れててね」と話を聞いた時は、各地によくある山造り作業を想像していたのだが、案内された先に広がっていたのは南諏を見渡す眺望と断崖のパノラマ。息を飲む迫力だった▼諏訪市四賀普門寺の山腹。「いかがです?」と作業のリーダーを務める伊藤為幸さんと仲間たちはちょっと誇らしげだ。江戸時代~昭和中頃の鉄平石採掘跡で「幕岩」と呼ぶ。地元民も多くが名を知るのみだったこの地の歴史と景観美を有志が掘り起こして磨いた▼整備の前はひどいありさまだったそうだ。廃れた林道が心悪しき人に目をつけられ、やぶと化した一帯に粗大ごみが山と捨てられていた。大型トラック3台分も手作業で除き、チェーンソーの使い方を一から学んで雑木を伐採。荒れ地を開いてならし、公園にした▼「新たに事を始めるのは得意でない人が多い地区ですが」とメンバーの百瀬秀樹さんは謙遜したが、いったん事を起こしたら皆が心を寄せ、大事業も成し遂げる結束の固さと地域の底力がひしひしと伝わる。幕岩整備は序の口で、山中各所の名所を再生するそうだ▼近年、地域の自治活動はいずこも担い手不足で縮小の傾向もあり、「個々の人間力が低下しているせい」と憂える声も聞く。「後世にこの地の景色を残してあげたい」と次代を思いやり、故郷の将来の活気を願って汗する姿に四賀地区の人たちの心の豊かさを感じた。