2023年11月8日付
過去にアフリカ・コンゴ民主共和国の難民キャンプ内に設けた医療施設を訪ねたことがある。キャンプには隣国で勃発した内戦を逃れ、コンゴへ流入した住民約131万人(国連発表)が7~8カ所に分かれて暮らしていた▼ブカブキャンプの医療施設では医師や看護師が、感染症や肺炎などの治療に追われていた。敷地内の分娩室で出産が行われ、産後の母子が野外に張ったテント内にあるベッドで休んでいた▼医師の話によると、キャンプ内では発足1年後、急激に出産数が増加する”人口爆発”が起こるという。戦争の不安や危機感が、人の子孫を残そうとする本能を活性させるらしい。食料や医薬品が不足する状況での出産。それでもベッドの母親は優しい視線をわが子に向けていた▼中東パレスチナ自治区ガザ地区をめぐる戦闘が激化する。NHKの報道によると、ガザでは5万人の女性が妊娠中で、1日に約150人が出産を予定する。医療物資や水までもが不足する状態で、避難所での出産を強いられ、早産も急激に増えている▼ガザ保健省によると、戦闘開始からの死者は約1万人。うち約4000人が子どもだ。米国の政治学者、アレクサンダー・B・ダウンズ氏は自著で、戦争の長期化で損失が増えた交戦国は「敵の民間人への攻撃姿勢を強める傾向にある」と指摘する。戦後に人道に対する罪を問うても遅い。一刻も早い停戦が必要だ。