2023年11月10日付
ある村の話。住民たちは飼育する牛を村共有の牧草地に放牧して育て、市場に売り、生計を立てていた。ある日、一人の住民が自分が飼う牛を増やした。多くの子牛を共有地に放牧して育て売りさばき財を成した。それを見たほかの住民も牛を増やし、村内の飼育頭数は激増。共有地は限界を迎えた。牧草は食べつくされ、牛はすべて飢え死に。住民は生活の糧を失い不幸になった▼アメリカの生物学者ギャレット・ハーディン氏が発表した論文に登場する寓話。「コモンズ(共有地)の悲劇」として環境問題が語られる際に引用される▼ある地区の話。住民は住宅近くに設けられたごみステーションに毎週決まった日時に可燃ごみを出し、それを収集車が回収していた。ある日、一人の住民が缶や瓶などの不燃物を混ぜて捨てた。それを知ったほかの住民もルール無視をまねた。混在ごみは激増した▼茅野市内10地区で行われた市長と市民の直接対話「まちづくり懇談会」では、今年もごみ出しルールが守られない悩みを区の衛生担当の役員が強い口調で訴えた。ルールを守らず、ステーションに残された混在ごみを処理するのはこうした人々。限界が近いように感じた▼いずれみんなが不幸になると悟ったある住民は可燃ごみ収集日の朝、袋の中に紛れ込ませた瓶を取り出すことにした。美しく保たれているごみステーションを見てそんな行動を期待した。