2023年11月16日付
車を運転中、不思議な感覚に陥ることがある。見通しの良い直線道路。緩やかな下り坂に入ったと認識し、アクセルを緩めると予想を上回る勢いで減速する。驚いて周囲の状況を観察すると、実は上り坂を走行していたことに気づく▼傾斜が異なる二つの坂が連続すると、その勾配を誤って認識することがある。縦断勾配錯視と呼ばれる現象。地平線のような基準がない場合、人は二つの傾斜の対比で道の傾きを認識しようとし、結果として坂道が逆転してしまったかのような錯覚に陥るそうだ▼全国には「ゆうれい坂」や「おばけ坂」などと呼ばれ、重力に反するような感覚を楽しめる人気スポットもあるようだが、こうした錯覚は車両の速度超過や減速を招く。事故や渋滞につながる危険性があることも認識しておくべきだろう▼周囲の風景や先行する車両。ドライバーはどこかに基準を置き、自らの状況を確認しようとする。安全運転を心掛けていても勾配が逆転して見える現象を防ぐことは難しい。人の感覚の曖昧さを知り、速度計を注視した方が得策だ▼「緩やかに回復している」。 政府の月例経済報告では5月以降、景気の回復基調が続いている。個人消費は持ち直し、雇用情勢にも改善の動きがあるというが周囲の状況を見ても一向に実感が湧かない。設定した基準が悪いのか、肌感覚では長い下り坂の途中。自身の錯視であることを願いたい。