2023年12月10日付

LINEで送る
Pocket

「書きやがったな、ばかやろう!」。署長の怒号が響き渡り、警察署内のフロアが凍りつく。「二度とそれ以上入ってくるんじゃねえ!」。顔を真っ赤にして敷居を指差し、出入り禁止令の追い討ち▼事件の発生で関係者らへの取材に奔走した。警察は犯人逮捕、立件に向けて罪の証拠を固めなければならない。記者は現場や犯人の周辺にある事象のわずかな点を拾っているに過ぎないが、もし犯人や関係者のみが知ることに触れ、公知となると捜査に支障が出る▼最後の詰めまで慎重な警察と、ひと文字でも多くの情報を読者に伝えたい記者とのせめぎ合いは常のこと。署長の怒りは指揮官としてもっともながら、あまりの怒りように「さてどうしたものか」と思っていると、署長が小声で「よく足を泣かせたな」と微笑んだ▼方々を歩き回って情報を探す大変さを署員たちは深く知っている。毎日朝から夜中まで訪ねる記者を見かねて「今日は何も起こらない。安心して寝ろ」と声をかける人もいた。情報を巡る攻防は厳しくも、むごい現場を共にして戦友のような心の通い合いがあった▼「情でつながれたのは昔のこと。今は通じない」という人がいる。でも社会には今も誰かを思い、誰かのために汗する人や、頑張る姿に心打たれて支援の手を伸べる人が数多くいる。人間が主役である限り、「一生懸命」を応援する温かな心に変わりはないと思う。

おすすめ情報

PAGE TOP