感染症の教訓未来へ コロナ禍体験手記冊子に

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明治期の感染症対策を記した史料(手前)とコロナ禍の体験手記を冊子にまとめた羽広区羽広誌研究会のメンバー

伊那市西箕輪の羽広区羽広誌研究会は、コロナ禍について区民各層から体験手記を集め、冊子「新型コロナ感染禍への地域の取り組み―伊那市西箕輪羽広の住民の声―」としてまとめた。未曽有の感染禍に直面した区民の証言に加え、感染症に対処するため明治期に成立した衛生組合の規約や取り組みに関する史料も掲載。戸惑いや恐れを感じながらも、見えない感染症に立ち向かった過去と現在の教訓を未来に伝える内容となっている。

同研究会は2014年に発刊された「羽広区誌」の編さん委員会が前身。現在は区内各組から推薦を受けた住民7人が貴重な古文書の整理・解読を続けている。

新型コロナ感染症に着目したのは昨年夏頃で、月1回ずつ会合を開いて過去の感染症対策の記録と区で保存していた史料を調査。今年3月区民に研究史料を公開したところ、コロナ禍を体験した区民の証言も加えれば歴史の教訓として今後に生かせるのではという意見もあって冊子にまとめることにした。

研究会では新型コロナの実態を幅広く把握しようと、さまざまな職種や年齢層の区民に執筆を依頼。「体験したり感じたりしたことを率直に書いて」と要請した。この結果区長や分館長をはじめ、区内各団体の代表者、保育園や学校の関係者、区内事業者など35人から原稿が寄せられた。

20年度の分館長だった男性は、多くの行事が中止になった当時を振り返り「罹患(りかん)した方への誹謗(ひぼう)中傷も耳にし、私自身の気持ちも疲弊して」「この時ほど地域の繋(つな)がり、人との会話、当たり前だと思っていた日常がどんなに大切だったか感じたことはありません」と記した。

コロナ対策に3年間制約された高校卒業生は、入学式・卒業式について「校歌斉唱はスピーカーで流れたのを聞いていた。3年間、自分達で校歌を歌ったことはほとんどなかったので、メロディは分かるが歌えない生徒が多いと思う。何か大事な忘れ物をしたまま卒業した気分」と切ない気持ちを吐露した。

一方史料からは、ワクチンや薬もなかった時代の感染症に対する住民意識や感染対策の実態が浮かび上がる。

1900(明治33)年5月に議決・施行された「羽広衛生組合」規約は、住民が守るべき衛生管理の規則を全29条にわたって取り決めたもので、全組合員(全戸)120人の署名を添付している。

興味深いのは、規約に基づいて行われた通行人の出入り調査。同年10月の大萱村での赤痢発生を受けて実施したもので、内容が一部掲載されている「通行人記細簿」には、羽広の出入り口に小屋を設け、往来する通行人に対して番人が名前や出発地、目的地などを問いただし、消毒をする様子が記録されている。

研究会会長の重盛欣三さん(77)は「人と人とのつながりが薄くなったコロナ禍を教訓に、今後に備えて地域の絆や日常の大切さを見直すきっかけにしてもらえれば」と話している。

冊子はA4判、54ページ。330部発行し、区内220戸に全戸配布したほか、市立図書館などにも寄贈した。問い合わせは重盛さん(電話0265・78・5691)へ。

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