2024年2月11日付

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本社駐車場の一番奥、職場から最も遠い場所に車を止める記者がいる。取材の行き帰りに黙々と歩く姿が目立つから、ずっと気になっていた▼締め切りに追われる記者は一分一秒でも早く原稿を書きたい。取材を終えると、車の中で何がニュースかを考え、文章の構成に思いを巡らす。記憶が鮮明なうちに執筆したい。だから駐車する場所はデスクに近い方がいい▼入り口付近が混んでいる。そこに止めようと思っていたのに。急いでいるんだ。重要なネタなのに。憤りに似た感情が沸き立つ。いさかいは、きっとこんなささいなことから始まるんだろうな。そんなことを考えているうちに、頭の中につづった文章は消えていった▼くだんの記者が無表情に通り過ぎる。思い切って声を掛けた。いわく、「私は端っこがいい。空気のように扱ってもらってひっそり暮らしたい」。ふむ、それから?。「会社やお店でみんなが近い場所に詰めて止める。不注意で当てたり、当てられたりする。ちょっとでも車に傷がついたら目くじらを立てるのに。とても違和感を抱く」。なるほど▼伊那食品工業の社員は出勤時に右折をせず、迂回して敷地に入るという。右折渋滞で地域に迷惑を掛けないためだ。自分らしさを自らのためではなく隣人のために使う。記者は報道部のTさん。もうすぐ63歳。元上司であり、一緒に仕事をしたいと思わせてくれる心強い同僚である。

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