2016年3月15日付

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この地方を近代化に導いた製糸家たちは、産業振興に貢献しただけでなく、駅や病院を開き、水道を敷設するなど住民の暮らしを助けるために私財を投じた。先日、町議会を傍聴していて、篤志家たちの郷土愛に思いを巡らせた▼議員は、住民の公益活動への資金支援を要望した。町の歴史や景観の資料をまとめて伝承教育や観光に活用を、という在野の研究家らの取り組みに対してで、県の補助金を頼み、不足分は自分たちで出し合い、寄付も募るつもりだが、その分を「行政が肩代わりできないか」と聞いた▼町は、「せっかくの熱い意欲に水を差すのはいかがなものか」と退けた。近ごろは住民から何かと行政頼みの要求が多い中で、有志の思いの尊さが分かるからこそ大切にしたい思いでの答弁だったろう▼とはいえ、市井で活動する住民にとって資金確保は最大の障壁。地域社会のために時間と労力を費やすだけでも奇特だが、自分の財布を開き、さらには他人に頭を下げて寄付を願うとあれば並みの苦労では済まない。ボランティアに求めるのは酷な仕事だ▼ちまたではふるさと納税が注目の的。ご当地の逸品目当てに寄付者が増え、市町村間の競争が過熱するが、現代の郷土愛はお得な見返りがあってこそ。無償の奉仕に汗する志はますます薄れそうだ。地域の将来のためには納税返礼の工夫に加えて、ふるさとへの思いを育てる努力も要る。

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