2017年02月07日付

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〈樹静かならんと欲すれども風止まず、子養わんと欲すれども親待たず〉。岩波書店創業者、岩波茂雄の故郷、諏訪市中洲にある「信州風樹文庫」の名前は、早くに両親を亡くした茂雄が座右の銘とした故事、「風樹の嘆」に由来する▼風樹文庫は、岩波書店が戦後発刊した全ての書籍を収蔵する専門図書館だ。敗戦直後の1947(昭和22)年に誕生し今年で創立70年の節目を迎える。戦後の混乱の中で、岩波書店を訪ねて図書の寄贈を直談判したのは旧中洲村の若者たち。一度は断られたという▼「青年の力で新しい日本をつくりたい」。若者たちの情熱が岩波書店を動かす。最初の寄贈本201冊は、3人の青年が重みに耐えながら郷里までリュックで運んだ。「みんな本に飢えていた」。その一人、平林忠章さんは数年前の小紙の取材にそう回想している▼岩波書店100年の歴史が詰まった図書館は、地域の宝だろう。文庫の役割と意義を折に触れて若い世代に伝えていくのは大事なことだ。同文庫運営委員会は創立70年の記念事業として、茂雄の生涯を描いた紙芝居を制作している。お披露目は11月頃になるという▼文庫の礎を築いた平林さんは昨年11月、鬼籍に入られた。94歳だった。70年の歴史を振り返るとき、その功績の大きさを思わずにはいられない。活字文化の先行きが不透明な時代だからこそ、文庫の果たす役割は増していると感じる。

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