2017年03月24日付

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福寿草の黄金色の輝きが目にまぶしい季節。新生活が始まる若者のはしゃぐ笑顔、職場を去る人の寂しげな、でも達成感のにじむ顔。送る者にとってはどんな形の旅立ちもつらい。ましてや二度と会えない別れならなおさらだ▼6年ほど前になろうか。その人は久しぶりに支局へ顔を見せた。数カ月前に風邪を引いてから声のかすれが治らず、病院で受診したところがんが見つかった―。普段なら満面の笑顔に大きな体を揺すって快活に話す人が沈んだ声で語った▼傾聴ボランティアやお年寄りを集めてのサロン運営をけん引し、まちづくりに自然保護と、頼まれれば何でも二つ返事、進んで汗をかいた。周囲への気遣いも細やかで、「おいしいから持ってきた。食ってみろ」と手のひらを開いてお菓子を差し出し、にっこり笑った▼最後の入院となった病室では寄り添う妻と励まし合い、「苦しくても泣き言は言わず一日を笑顔で過ごそう」と約束した。全身を病魔に冒されて呼吸もままならないのに、ユーモラスなしぐさで見舞客を笑わせてもてなし、そのわずか数日後に逝った▼人の心根やどう生きてきたかは、命懸けの瀬戸際に表われると、彼は教えてくれた。春は命が輝く季節。だが一方で、心が不安定になりやすい時期でもある。生きるべきかを迷う時、自分はどうありたいのかに思いを致せたら、散り急ぐ気持ちを引き留められないだろうか。

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