2017年07月03日付

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固形の墨で和紙の表面をゴリゴリとなぞるうちに、うねった模様が浮かび上がってくる。その形をとくと眺めていると、古代の人が一心不乱に粘土を彫り込む姿が想像される▼富士見町の井戸尻考古館が縄文土器の拓本採り体験を始めた。かつては近くの畑を軽く掘れば土器が出てきたが、今や実物を見られるのは博物館ぐらい。かけらでも「触ってはいけない宝物」と思っている人が少なくないそうだ。体験は子どもからお年寄りまで夢中になる▼紙に模様を写すと肉眼では気づかない彫り込みや形が見えてきて、彼らの手仕事のぬくもり、精巧さが実感できる。模様は意識的に作ったものだけでなく、製作の際に使った敷物の跡というのもある。黒曜石で竹を細く裂いて編んだそうだ▼こうして一片の土器からも、縄文人の技や創造力、暮らしが見えてくる。彼らは微細かつ大胆な表現力を持つ、優れた芸術家でもあったようだ。「技一つで生き抜いた、今までで最も心豊かな時代」と樋口誠司館長は言う▼同館学芸員の小松隆史さんは、縄文人にならった貫頭衣姿で街を歩くと、周囲が“装飾過剰”に見えるそう。物が豊富すぎて、不用品処分が「心の修行」ともてはやされるような時代だ。縄文人から学ぶことは多い。それから、先人の知恵や技、宝物を大事に収めたままでは次世代に不用品と見限られかねない。今に生かす創意工夫も必要だろう。

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