2017年07月29日付

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無理もないと思いつつ、残念な気持ちだ。戦没した画学生や若手画家の作品を展示する無言館(上田市)の慰霊祭「無言忌」が、先月の第20回で一区切りとなった。高齢化や出席者減少を理由に、遺族中心の慰霊祭はこれが最後という。画学生たちを知る人が集まって偲ぶ貴重な機会だった▼無言館には茅野市出身の矢崎博信の絵画2点が寄託されている。シュールレアリスム(超現実主義)の画家として活躍したが、1944(昭和19)年、中部太平洋で乗っていた輸送船が攻撃を受け、29歳で戦死した。2014年に茅野市美術館が生誕100周年の企画展を開き、その際に詳細な図録を作った▼前衛画家だけに当時としては奇抜な構図の絵もある。古里ではなかなか理解されなかったようだ。しかし代表作「高原の幻影」(諏訪市美術館蔵)のように、非現実的な作品世界を流れる透明感や静寂さには心を奪われる。戦争の色濃い時代に自らの芸術を追求した強い意志も確かに感じられる▼戦死したのは3度目の応召で、旧制諏訪中学校の教師を務めていた。親族の回想によると、最後に家を出る朝、「必ず帰ってくるから、絶対に僕の絵は散らかさないでくれ」と言い残したそうだ。無念の思いは察するに余りある▼若き画家たちを直接知る人は少なくなるが、命をかけて描いた作品は残る。いかに後世に伝えていくかは、現在に生きる私たちの課題だ。

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