報道写真家樋口健二さん 傷痍軍人の写真集

LINEで送る
Pocket

富士見町松目出身の報道写真家、樋口健二さん(80)=東京都国分寺市=が、傷痍(しょうい)軍人を記録した写真集「忘れられた皇軍兵士たち」をこぶし書房(東京)から出版した。戦争で傷ついた心と体を抱え、繁栄の裏側で人知れず生きた人々の姿を掲載し、戦争の悲惨さを訴えている。

樋口さんは1970年から3年間、療養所や病院で暮らす傷痍軍人を取材。しかし、当時は高度経済成長期で「明るい時代にそぐわない」という理由から写真を掲載する雑誌はなかった。写真は47年にわたってお蔵入りになっていたが、写真を見た編集者から出版の依頼を受けたという。

写真集は、その後を追った2006年の取材を加えて▽旧箱根療養所最後の傷痍軍人▽ハンセン氏病傷痍軍人たちの戦後▽結核に冒された傷痍軍人たち▽心を病んだ兵士たち―で構成。カテーテルを使って尿を取り出す男性や、深い傷口をさらして入浴する患者たち、精神を病みながらも直立不動で敬礼をする元軍人らが、カメラに憂いのまなざしを向けている。

樋口さんはまた、戦時中に母親を赤痢で亡くしたことや、樋口家に温かい手を差し伸べてくれた親類の「長正(ちょうせい)さん」の戦死について、初めて記した。2人の死と長正さんの未亡人「ひさのさん」の悲しみ、出稼ぎで上京した際に路上で見た傷痍軍人の姿が、報道写真家として「虐げられた人々に視点が向く原点」になったと吐露する。

樋口さんは「繁栄の裏側で、多くの皇軍兵士は顧みられることはなかった。『見てくださいよ!手柄を立て、勲章をもらったが何の効力もない』と涙ぐんだ菅野茂良さん。取材を受けてくださった彼らの思いをようやく世に出すことができた」と話す。「敗戦72年の歳月が人々の心から戦争のむなしさ、恐ろしさ、悲惨さを忘却のかなたに押しやりつつある中、戦争の足音が近づいている」と警鐘を鳴らし、若者たちに伝えたいと願う。

厚生労働省によると、戦争でけがや病気をした軍人、軍属に交付される戦傷病者手帳の2015年度台帳登載者は1万463人で、前年度より1700人(14%)減った。このうち手足や視力を失ったり、重篤な心身障がいで介護が必要な「特別項症~第2項症」の人は202人。県内には4人いて、今なお療養生活を余儀なくされている。

A5判、152ページ。2000円(税抜き)。

おすすめ情報

PAGE TOP