2017年09月09日付

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「傷痍軍人」と聞いて、若い人は分かるだろうか。富士見町出身の報道写真家、樋口健二さんが戦争で負傷した軍人のその後を取材した写真集「忘れられた皇軍兵士たち」(こぶし書房)を出版した。戦後の繁栄の裏側で、人知れず生き続けた傷痍軍人に焦点を当てた労作だ▼最初の取材は1970年だったそうだ。当時は高度経済成長期。「明るい時代にそぐわない」と、掲載を引き受ける出版社はなかったという。50年近くもお蔵入りしていたが、近年の取材を加えて日の目を見た▼このエピソードを聞いて、ハンセン病問題の報告書を思い出した。厚生労働省の委託を受け、2005年に日弁連法務研究財団がまとめた。ハンセン病患者に対する強制隔離政策が、いかに人権侵害などの被害を生み出したかを検証した報告書だ▼その中にマスメディアの責任に触れた箇所がある。「話題性のあるものや一過性の出来事を大きく取り扱う傾向にあり」、社会の陰で苦しむハンセン病患者の問題をきちんと報道してこなかったと批判した。そして、それは現在のマスメディアが未解決のまま抱える課題である、とも▼耳の痛い指摘だ。樋口さんの作品が70年代に受け入れられなかったのも、こうしたメディアの傾向によるものかもしれない。だからこそ、誰もが繁栄を追い求めていた時代に、少数者の傷痍軍人に心を寄せた樋口さんのジャーナリスト精神が光る。

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