2016年4月7日付

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待ちかねた桜の季節がやってきた。きのうの上伊那版にピカピカのランドセルを背負った1年生の写真が載っていた。付き添う親にも笑顔があふれ、背景のピンク色の桜が祝福しているように映った▼「物心ついてから桜を美しいと思っていた人がいたら変人か天才。チューリップの方がはるかに美しい」。歌人の岡野弘彦さんの言葉を思い出す。小さな子どもだって美しいと思うに決まっている、という固定観念があったせいか、意表を突かれた。ずいぶん前に聴いた講演だが、強く印象に残っている。表面でない、もっと深いところでの美についての話だった▼岡野さんは「炎の桜」を見た。二十歳だった1945年4月の夜、所属する部隊の軍用列車が東京で空襲に遭った。線路脇の溝の泥水を体に振り掛け、火から逃げた。「堤防の桜が花ごと炎になって燃え上がった」光景を目にしたという。「俺は一生、桜を美しいとは思わないだろう」とも語っている▼〈ほろびゆく炎中の桜 見てしより、われの心の修羅 しづまらず〉〈あたたまりなき心なりけり。若き日の炎の桜 まぼろしに見ゆ〉。そのときの体験が、歌集「バグダッド燃ゆ」(2006年)にも収められている。何十年経っても癒えることのない心の傷の深さが伝わる▼入学式で希望と喜びにあふれて親子で見る桜は美しく記憶に残るだろう。当たり前の平和のありがたさを教えられる。

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