2018年6月12日付

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「夏は夜」と言った清少納言は、ホタルが舞うこの季節の晩の風情を「枕草子」につづっている。闇夜に多くが飛び交う光景も、1匹2匹のほのかな光も趣があると。千年以上も前の時代から、ホタルは風物詩として愛でられていた▼秘めた思いや身を焦がすような恋心の象徴として、和歌や物語の恋愛場面にもしばしば登場するホタル。一方、その青白い光は体から抜け出た魂に見立てられることもある。和泉式部は〈物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂かとぞ見る〉とうたっている▼昨年7月の九州北部豪雨で大きな被害を受けた福岡県東峰村の宝珠山川で、ホタルが飛び交い始めたという。護岸が削られて幼虫が流され、開催が危ぶまれたホタル祭りが開かれたと、ニュースが伝えていた。住民はその淡い光に復興への願いを込めたことだろう▼ホタルの舞う豊かな里山と水辺を取り戻したい―。全国各地で、行政や住民らによる地道な保護・再生の取り組みが続いている。平安の昔から変わらぬ、蛍火への特別な思いが日本人にはあるのだろうか。ホタルを取り巻く人々の熱い思いを感じずにはいられない▼その1カ所、名所として知られる辰野町の松尾峡で、ゲンジボタルが乱舞している。16日から始まる祭り期間にかけて多くの人が観賞に訪れ、幻想的な光の舞に酔いしれることだろう。心をほんのり温かくしてくれる、小さな灯である。

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