2019年03月08日付

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昔は家事に尽くし、家の中で一生を終わる女性が多かった。下諏訪町出身の劇作家、阿木翁助さんの祖母もその一人だった。「祖母は、私たちのために御飯を炊くことを生き甲斐として、一生炊事で暮らした」と懐かしむ(「忘れがたき言葉」)。阿木さんが遠足で残ったおにぎりを投げ捨ててしまった時には、烈火のごとく叱りつけるほどご飯を大事にした▼この祖母が亡くなる直前、突然病床を抜け出した。五升釜いっぱいの飯を炊き、片っ端からおにぎりを作りだしたという。驚いた阿木さんの母親に、「鉄翁(阿木さんの本名)が遠足に行くから」と笑ったという。最後にコメを炊きたかったのだろう▼日本のコメ生産量は減り続けている。農林水産省によると昨年産は732万トン(主食用)。この10年間で約15%減少した。自給率は高いものの、農業の在り方として警鐘を鳴らす専門家もいる▼先ごろ茅野市で開いた講演会で、資源・食糧問題研究所(栃木県)の柴田明夫代表は、「日本の農業、経済、国土を保全してきた水田が丸ごと維持できなくなっている」と危惧した。日本の“中心”である農業と農村の立て直しを訴えた▼阿木さんの祖母はよく「一粒万倍」と言ったそうだ。一粒のモミを水田に播けば、万倍の収穫になって戻ってくる。そういうコメが日本人を支えてきたことは間違いない。阿木さんも生涯、「飯への郷愁」を持ち続けた。

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