2019年04月20日付

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南信地方の桜が北へ北へと咲き広がっている。桜に限らないが、花が人を引き付けるのは、その美しさが束の間のものだからだろう。若い頃は、そういう儚い美しさが実感できなかった。花も人生も限りがあることをまだ分からなかったから▼果樹農家にとって大敵なのが遅霜。この時期はまだ警戒が必要だ。一方で初冬の霜は、野沢菜などに柔らかさやうま味を与えることが知られている。農業改良普及員、技術員として活動し、農作物に詳しい駒ケ根市の神野幸洋さんが、霜の儚い感動を本紙掲載の随筆で語っていた▼霜は明け方にできて、太陽が昇るとともに解けてしまう。ともすれば見落としがちな自然現象だ。すべてが眠っているかのような時期にできるからこそ、神野さんは「そのはかなさ故に心をうたれる」と愛おしさを感じる▼恋もまた、人が輝く一瞬をもたらす。シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが昨年、デビュー45周年を記念したアルバムを発表した。厳選した45曲はいずれも恋を歌う。松任谷さんはそれらの収録曲を「人の営みの美しさと切なさ、この世の尊さと儚さの”讃美歌”」だと語る▼自然界も、人の心も、美しく輝くものは決して永遠でない。いわゆる「無常」である。神野さんはこの無常こそが「私たちの心の奥にしまってある何かを思い出させる」と言う。今、この瞬間を大切に生きようとする心根だろうか。

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