2019年05月21日付

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法律に疎く、社会経験も少ない自分が選任されるはずがない―。刑事裁判に市民が参加する裁判員制度を題材にした角田光代さんの小説「坂の途中の家」(朝日新聞出版)は、子育てに追われる平凡な主婦が主人公として描かれる▼裁判員候補者に選ばれたと裁判所から通知を受け取った主人公は、辞退の意思を示すも認められず、乳幼児虐待死事件の裁判員裁判に補充裁判員として参加することに。裁判での証言を聞くうちに、自らも幼い子を持つ母親として、被告の境遇に自らを重ねていく▼重大な事件の審理に加わり、裁判官とともに有罪・無罪や刑の重さを判断する。法廷に連日通って公判に臨むため、生活への影響は避けられないし、人を裁くことへの心理的な負担もある。仮に自分が選ばれたとして務まるだろうかと想像しながら、物語を読んだ▼「司法への国民参加」を掲げた裁判員制度が、21日で施行から10年を迎えた。最高裁が公表した「総括報告書」によると、裁判員などとして刑事裁判にかかわった市民は9万人に上る。裁判員の9割以上が司法への参加を「良い経験」と肯定的に捉えているという▼一方、仕事などの理由で辞退した人の割合(辞退率)は増加傾向が続き、昨年は過去最高の67%を記録した。一般の感覚からすれば、司法の世界はまだ遠く感じられる。「完成途上」(最高裁長官)という制度の見直しが必要なのだろう。

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