考想・諏訪湖 7、小口煙火会長小口芳正さん

LINEで送る
Pocket

花火師として諏訪湖と向き合い、多くの観客に感動を与える花火を手掛けてきた小口さん

諏訪湖を舞台に夏の夜空を彩る打ち上げ花火。8月15日の「諏訪湖祭湖上花火大会」は規模、音、振動、迫力どれをとっても全国トップレベルで毎年、数十万人の観客を魅了する。地元の花火師として、諏訪湖の花火を支えてきた小口煙火(諏訪市湖岸通り)の小口芳正会長は「諏訪湖は最高のステージ」と言い切る。

湖上花火大会は1949(昭和24)年、終戦後の混乱が続く中で市民を元気づけようと始まった。諏訪湖祭実行委員会によると、当時約5万人の観衆を集めた。54年には観光と花火の打ち上げ場を兼ねた「初島」が湖岸から約250メートル沖に完成した。

小口会長によると、諏訪湖の花火の迫力は「諏訪湖ならではの好条件がそろっているからこそ出せる」と語る。初島は花火の表現力を高める上でなくてはならない存在だ。尺玉は初島から上げているが、この際の打ち上げ台から客席までの間に設けるべき保安距離は250メートル以上。諏訪湖では保安距離ぎりぎりの地点が客席の最前列となっている。打ち上げ台からの近さは迫力に直結する。初島周辺は遠浅で水深は約3メートルとなっており、打ち上げ台を同じ高さで固定しやすい。湖面の波などの影響を受けずに済むため、名物の水上スターマインは「理想的な形」になる。「ずしん」という振動は「客席までの間に音を吸収するものが何もないため」。四方を山々に反響した音は体の芯にまで響き渡る。

諏訪湖の花火の魅力はこうした恵まれた立地条件に加え、花火師たちの苦労と心意気が支える。毎年7月上旬から始まる打ち上げ台の設置作業は花火大会の準備としてはかなり長い。地上で打ち上げる花火大会の場合、大会当日の朝に準備を進め、夜中に撤収するのが一般的という。花火玉は諏訪湖ヨットハーバー近くから初島まで何度も舟で往復し、現場に運び込む。

限られたスペースの中で数多くの通電線を間違いなく引くのは正確性と専門性が要求される。音楽と花火のコラボレーションは高度な技術を要する。花火大会は安全対策を含め、花火会社だけでなく、民間業者、団体、行政を含めた多くの人の力によって準備が進められる。

花火作りはすでに始まっている。小口会長は「人の心に届く花火を打ち上げたい。その気持ちはお客さんに届くはず」と信じ、気持ちを込めて製造している。

製糸工場を営みながら打ち上げ花火を作っていた祖父の職人としての腕を知り、花火作りの道を志した。大学卒業後、静岡県で1年間、花火づくりの修業をし、諏訪に戻った。「いい花火を作りたい」という思いで創業し、以来、花火一筋で歩んできた。5月には息子の晶大さん(30)に社長を託した。知識や技術と共に「心を込めて作ればそこに感動が生まれる」という職人として大切してきた思いを伝えた。

令和最初の湖上花火大会は8月15日、全国新作花火競技大会は9月7日、連日連夜約800発を打ち上げる諏訪湖サマーナイト花火は7月21日~8月25日。「湖上なのでお客さんがどんな表情で花火を見てくれていのるかは分からない。でも『わー』という歓声は聞こえる。全プログラム終了後の拍手と『ありがとう』の声も聞こえる。その瞬間は花火師冥利に尽きる瞬間だね」。自らの職に誇りを持つ男の顔がほころんだ。

おすすめ情報

PAGE TOP