2019年6月26日付

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梅雨の晴れ間に、山の麓の松林から、あれほど聞こえていたセミの鳴き声が、雨の日にはパタッと止まっていた。ひょっとして、セミも雨が苦手なんだろうか▼特に虫好きというわけでもなく、そんなことは考えたこともなかった。ちょっとした興味から、10日ほど前に鳴いていたセミの声の主を突き止めようと、山の麓の松林のそばまで行った日が、たまたま雨だったから気付いただけだった▼6月中旬のことだ。中央アルプス山麓の、標高1000メートル近い場所にある林の中から、「ジー、ジー」とも「ギー、ギー」とも聞こえてきた。真夏のうっとうしい暑さの中で聞くセミの声とは違い、緑が美しい山麓を吹き抜ける風に乗って聞こえてくるセミの声は、どこか心地よかった▼「あれはムギウラシ」。地元の人がそう教えてくれた。伊那谷はちょうど麦秋。梅雨時の麦の刈り入れが束の間の晴れを狙って行われることを考えれば、晴れた日に聞こえてくるセミの声は、なるほど「麦熟らし」なんだろう。だが、調べてみても、そんな名前のセミは図鑑にはなかった▼ハルゼミのことだろうか…。そう思ってもう一度訪ねてみたが、聞こえてきたのは、あのときとは違うヒグラシの声だった。結局正体は分からずじまい。ただ、刈り入れ前の麦田で、登熟した穂が黄金色に輝いているのを見ていると、「ムギウラシ」のままでいいのかもしれないなと思った。

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