2019年07月22日付

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富士見高原の夏は都会から合宿に訪れる子ども、学生でにぎやかだ。その一団の通り過ぎざま、聞こえた会話にギョッとした。「うわっ、虫だ。気持ち悪い。全部死んじまえばいい」▼昆虫嫌いの子どもは確かに増えているらしい。噛みつくとか刺すとか害があるなしの問題ではなく、生態も名も知らない。それでもとにかく存在自体が嫌い。そんな声をしばし聞くから、富士見町の夏祭りでたくさんの子どもがカブトムシ釣りに夢中な姿には驚いた▼子どもたちは家々から空の飼育箱を抱えてやってくる。大きな木箱の中にはおがくずに包まれてうごめくカブトムシ。その眼前に毛糸を垂らして虫が糸に移り伝うのをじっと待つ。やっと“釣れた”虫を箱に納める子どもの目はまるで宝物を見るようだ。親子で「大事に飼おうね」とうなずき合う▼この虫は毎年、商工会の青年部員が山に分け入って探してくる。少年時代、夢中になった昆虫採集の体験、町の豊かな自然を自身の子どもにも味わせたいと願いを込める。今年も祭りに向けて数を集め、自家製の蜂蜜で栄養を与えて育てている▼生き物の命を扱うことには是も否もある。飼育も容易ではない。もしや子どもが知るのは育てる喜びではなく、命のはかなさかもしれない。それでも自分以外の命を認め、慈しむ体験はかけがえないと思う。無差別で残忍な事件が多発するこの時代なればこそ、だ。

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