2019年7月31日付

LINEで送る
Pocket

詩人長田弘さんのエッセー「すべてきみに宛てた手紙」(晶文社)は、目の前にいない「君」に宛てて書かれている。〈本にとって大事なことは、結びあわすこと〉。この本で長田さんが引用している、ある作家の言葉が心に留まった▼言葉を紐帯として人との関係が深まる。長田さんは同著のあとがきで、書くとは二人称をつくりだす試みだとして、〈文字をつかって書くことは、目の前にいない人を、じぶんにとって無くてはならぬ存在に変えてゆくことです〉と記す。言葉には強い引力がある▼交換日記を通じて男女の新しい恋を結ぶ茅野市の独自事業「結(ゆい)日記」が好評だという。顔も名前も知らない2人が相手を思いやって日記をしたため、親密になっていく。婚活支援企画で、昨年度に始まった第1回には各地から230人を超す応募があった▼市内在住者と市外在住者の組み合わせで市が10組を選定。日記を10回交換し、互いの思いが一致したカップルが市内の御射鹿池で会う設定。これまでに5組のカップルが成立したという。ほかの自治体からも反響があり、市は共同で取り組む自治体の募集を始めた▼愛の告白も別れの言葉もクリック一つで済んでしまうインターネット全盛の時代に、まさに逆転の発想だろう。一文字一文字に思いを刻んだ日記が互いを結び合わせる。それにしても交換日記とは、と昭和のおじさんは感慨深くなる。

おすすめ情報

PAGE TOP