考想・諏訪湖 9、漁師藤森重利さん

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漁師として向き合ってきた諏訪湖への思いを語る藤森さん

漁で諏訪湖に初めて出たのは5歳の時。父親の手伝いで舟に乗った。漁師として50年以上諏訪湖と向き合い続けてきた藤森重利さん(62)=諏訪市豊田=は今、諏訪湖と諏訪湖の漁業に危機感を募らせている。「魚が生きられる環境としては悪化し続けている。湖底の伏流水が止まり、水はよどむ。魚食性の鳥から逃げ隠れる場所もなくなった。漁の担い手も減るばかり。このままでは諏訪湖から漁業が無くなってしまう」。

藤森さんが子どもの頃に湖上で見たのは、多くの舟が並ぶようにして位置を取り、網を打って魚を捕っていた光景だった。諏訪湖には多くの漁師を支える魚がすみ、周辺には捕った魚を消費するのに十分な需要があった。現在の諏訪湖の水揚げの主はワカサギだが、かつては、コイ、フナ、ナマズ、ウナギ、モロコ、貝類など種類も豊富で「旬が次から次へとやってきて、一年中やることがあった」という。小中高校と通いながら漁を手伝っていた藤森さんは父の背中を見て技術を磨いた。高校卒業後、製造業の企業に就職し、兼業で魚を捕っていたが、48歳の時に仕事を辞め、漁師一本で生きる道を選んだ。

県が1967(昭和42)年に洪水対策などを目的とした湖岸堤の築造を計画した。「湖岸をコンクリートで固めたあたりから、状況はどんどん悪くなった」と藤森さんは感じている。湖底の地下から湧き上がる水の強さによって水面が盛り上がる地点も消えた。「諏訪湖の水が動きにくくなった」。

諏訪湖では、気温が上昇する夏場、表面と湖底の水温の差ができ、水温が低く、比重が大きい湖底の水と水温が高い表面の水は混ざりにくくなる。湖底に沈んだ動物の死がいや枯死した植物などの有機物がバクテリアの働きによって無機物に分解される際に酸素が消費され、水に溶けた酸素が欠乏する貧酸素の水塊を形成する。地下からの伏流水や風雨などは水を上下方向に動かし、表面と湖底の水の混合を促すが、動きがないと、混ざらず、貧酸素は広がる。

湖内の酸欠の懸念は以前から、研究者だけでなく、漁師の間でも強まっていた。「何もなければいいが」と毎夏感じていた藤森さんの不安が2016年7月26日、現実のものとなった。魚類が大量に死んだ。連絡を受けて湖に向かうと、一面に魚が浮いていた。「諏訪湖が終わってしまうかも」とこぼれ落ちる涙が止まらなかったことを今でも鮮明に覚えている。大量死から3年目の今夏、主力のワカサギは順調に生育し、大量死前の状態に戻りつつある。ただ、コイやフナなどは依然として漁獲量が戻らず、武居薫諏訪湖漁業協同組合長(68)は「大量死の影響はいまだ続く」と話す。

7月23日未明、諏訪湖では藤森さんを含むベテラン漁師2人が投網によるワカサギの試験捕りを行った。ポイントを定め、打った網は大きく開き、バサッという音を立てて湖面に落ちた。「体が動くうちは漁に出る。技と伝統を引き継ぐ若い漁師が現れるように頑張らないと。後継者を育てるためにも多くの生き物がすめる諏訪湖の復活を目指して現場から声を上げ続けていきたい」。藤森さんが諏訪湖の漁業を守り、残す決意を新たにした。

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