2019年09月13日付

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いまから5年前、物語は種の発見から始まる。絶滅したかと思われていたが、県の試験場に残されていた。わずか20グラム。伊那市高遠町の一部と長谷を指す「入野谷」で作られていたソバの在来種だ。入野谷在来種復活夢プロジェクト。官学民で地道に増やしていき、年内にいよいよ市内そば店で提供できる見通しとなった▼粒が小さく収量は少ない。多収品種の普及に連れて途絶えていったが、味の記憶は地域の人たちに残る。「長谷の浦で昔うまいそばを食べた」。試験場に依頼して一部を増殖播種。6粒が発芽して復活への扉が開いた▼浦地区を拠点に原種を増やし、栽培面積を年々拡大。販売用のソバを育てるほ場を今年、長谷の柏木地区に新設した。刈り入れ、乾燥処理などを経て、11月下旬から各店で順次販売を始めたいという▼入野谷在来種の最大の特徴は「香り」。信州大学農学部の井上直人特任教授が、有名産地のソバと共に行った成分分析調査でも群を抜いていた。そば店主は水回しの際に経験したことのない香りが立ち込めたと証言。ゆでても香りが残るよう研究も重ねている▼入野谷在来種そばを目当てに訪れる人、意欲を持って生産していく人、味を守り続けていく人。在来種を通して中山間地域を活性化させていくことがプロジェクトの目標でもある。小さな実に込められた大きな夢。「究極のそば」の物語の先が楽しみでならない。

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