2020年01月18日付

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駒ケ根市を担当エリアにしていた当時、参考にする資料がほしくて市立図書館に行くと、独特の風貌をした高齢の男性をよく見かけた。白髪にひげをたくわえ、和風の服に身を包んでいる。ソファにゆったり座り、本をめくる姿が印象的だった▼伊那谷の自然を愛し、駒ケ根に長く住んだ英米文学者で詩人の加島祥造さんである。多くの著作を世に出し、2015年に92歳で亡くなった。淡々としたリズムと言葉を繰り返すベストセラー詩集「求めない」で知っている人も多いだろう▼その加島さんが寄贈した蔵書を収めた「加島文庫」ができたと聞き、市立図書館を訪ねた。事前に予約をして書庫に入ると、幾つもの書棚に圧倒された。ウィリアム・フォークナーをはじめとした英米文学や日本文学の古典、詩集などが並ぶ▼加島さんの著書を見つけて開くと、改めて推敲した跡だろうか。赤字の書き込みが目を引いた。書籍やメモなどの多様さにも驚かされた。どこからか、詩の言葉が響いて来るような気がした。〈求めない―すると、心が静かになる。求めない―すると、心が広くなる〉▼物が物として形をなさない時代だ。本などの出版は電子化が進み、手紙はメールに変わる。音楽はレコードやCDが過去の遺物となり、ネット配信が主流を占める。ただ、形ある物には心の奥まで伝わってくる何かがある。時代を経ても決して古びはしないと実感した。

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