2020年3月2日付

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〈呼吸すれば/胸の中にて鳴る音あり/凩よりもさびしきその音!〉。貧しさの中で肺結核を患い、26歳の若さで没した歌人石川啄木には、結核をうたった歌がある。闘病に苦しんでいた歌人の歌には常に死の影がつきまとっていた▼明治から昭和初期にかけて「国民病」とも呼ばれた感染症、結核の恐ろしさは療養施設であるサナトリウムを舞台にした小説にも描かれている。日本で唯一の高原サナトリウム「富士見高原療養所」には多くの文化人が療養し、小説「風立ちぬ」の舞台にもなった▼結核と聞いて「昔の病気」という印象を持たれる方もいるかもしれないが、厚労省によると、現在でも年間2千人近くが命を落としている日本で最大級の感染症だ。結核が流行するアジアからの留学生が増加していることもあり、外国人の患者も増えているという▼結核菌は稲作とともに中国大陸から日本に持ち込まれた―との仮説がある。5千年以上前の中国の遺跡で出土した人骨に結核発症の痕跡が見つかり、日中の研究グループが昨年、「東アジアで最古となる結核症」と発表した。人と結核菌との付き合いはかくも長い▼結核に限らず、感染症をもたらす細菌やウイルスは、医学や公衆衛生が発達した今日でも人間にとって脅威であることに変わりはない。変幻自在に変異し、「新型」となって感染を広げることもあるウイルスの怖さを、改めて実感する。

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