2020年4月28日付

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温泉地の諏訪市には自宅に風呂のない家が多い。市によると、市内約2万世帯の数パーセントに上る。仮に5%とすれば、1000世帯が共同浴場を日常的に利用していることになる。上諏訪の路地を歩けば共同浴場がそこかしこにある。この春、16年ぶりに諏訪市に赴任し、温泉を享受する暮らしの豊かさを改めて感じた▼諏訪市小和田の共同浴場「平温泉」では組合の会員が減り、1921年から続く浴場の維持が難しくなっているという。一方で、新型コロナウイルスの影響で各地の温泉施設が営業を自粛したため、組合に入会したいという声もあるそうだ。着任直後の本紙の記事で知った▼諏訪で暮らし始めた20年前、平温泉に通った。夕刊を配り終えて6畳一間のアパートに帰り、風呂桶とタオルを持って平温泉へ向かう。中門川には四つ手網の横でワカサギを待つ老人がいて、路地に入ると子どもを呼ぶ母親の声や食器がぶつかる音、大正琴の音色と鶏肉店から漂う揚げ物の匂いがした。平温泉には同じ時間に同じ顔ぶれが集まり、無名の若者を受け入れる温かい人情と活気にあふれていた▼平温泉は来年2月に100周年を迎える。隣人の気配を感じながら寄り添い生きる人間の営みをつなぎとめてきたのが温泉だと思う。湯船で一緒だった人たちは今も元気だろうか。生きる根を諏訪に置こうと決めたあの頃の街の風景を思い返している。

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