2020年5月11日付

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新型コロナウイルスの感染が疑われる場合、最初に医療機関へは行かず、まず保健所へ電話を掛けて、その後の対処法を聞く。だが電話は症状を訴える内容だけではなく、発症した患者の身元や立ち寄り先の具体的な店名を聞きたがる人、苦情や意見を延々と話す人もいて「目的である感染者の早期発見と治療に支障が出かねない」という声を聞いた▼感染者が増え始めた先月、県内では電話による1週間の問い合わせ件数が「数百件」を超えた保健所があり、感染症指定医療機関の病床が満床になって近くの協力病院が感染者を受け入れた事例があった。保健所の機能不全や医療崩壊が憂慮される事態だった▼居住する地域で感染者が確認された夜、インターネット上には短時間のうちに感染者の立ち寄り先を示す未確認情報が流れた。店名を挙げられた店のうち、感染者とは無関係だった知人の店主は「客が来ないよ」と嘆いた▼作家の曽野綾子は著書「なぜ子供のままの大人が増えたのか」で日本人の幼児化を指摘し、その特徴を「もし仮に自分が……であったならという仮定形になかなか現実の意味を持たせられない」とつづる。「結果的に相手を軽々と裁く」とも記す▼想像力を欠く長電話が保健所の担当者を悩ませ、裏付けのない匿名の偽情報が無意識のうちに多くの人の心を傷つける。「我が身をつねって人の痛さを知れ」とはいかないものか。

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